米中関係と大使の存在意義

昨2017年7月、人民大会堂内の赤絨毯の大広間で習近平氏に大使としての信任状を提出していたブランスタッド(Terry Branstad)氏。

NPR(2月18日)によると、習氏との出会いは30年以上前の1985年の事であるという。
習近平氏はその時、まだ巽県のある郡レベルの中国共産党員として、しかし一応巽県を代表して、視察団として姉妹州アイオワにあるブランスタッドの村Lelandを訪問してきた。
時にブランスタッド氏は初めてのアイオワ州知事になっていた。

この滞在で、明らかに習氏は、初めてアメリカに対して好印象を抱いたらしかった。
ボートでのミシシッピ河下りや、あちこちの農村(一種の農業実習のような)や工場訪問を通して、「アメリカ人らは、習氏の率いる実習グループに親切に振舞った」。

ブランスタッドは、習氏との間柄について言う。
「彼は我々を『古い友人』(Old friends)と呼ぶが、それって、中国では『親友』を意味する大切な言葉なんだってね!」。

そのブランスタッド氏は、6年連続知事に当選してアイオワ州知事を勤めた(アメリカ合衆国の知事歴としての記録だそうだ)。
長年の共和党員の彼は、その間、トランプ氏の大統領選挙で同氏のために大いに働いた。
一方、30数年前の実習生の団長習氏は、共産党の中でドンドン出世していた。
今や、世界の大国中国共産党の長で、人民軍の総司令である。

ブランスタッド氏は言う。
「誰が、あの若者が将来、この大国中国共産党の最高責任者に昇りつめるなんて予想できたろう…」。

その知事のブランスタッド氏に、トランプ氏から電話によるニューヨークのトランプタワーへの呼び出しがあったのが、2016年12月のある日だ。
ブランスタッド氏は、その時のトランプ氏からの中国大使の話しを、1日で受けている。

トランプ氏はその談話の中で、氏のアイオワ州知事としての長年の中国との深い付き合いを、習氏との強い個人的なつながりを引用していた。
彼の中国大使任命は、何よりも中国政府により受入れられた。
その2,3日前、中国を差し置いて台湾の蔡総統に電話をかけていたことのマイナスを幾分帳消しにしていた。

ブランスタッド氏の中国との、中でも習氏との30年来の付き合いが、大使としてのブランスタッド氏の活動を大いに助け支えていることは言うまでもない。
ブランスタッド氏は言う。
「他の大使らとは、まるでアクセスの範囲が違う…あちこちの部門の政府のお偉方と直接会って、いろんな話ができる…こちらの意見も率直に言えるし…」。

それだけではない。
彼は色々な所へ出没している。
たとえば、中朝国境の街、丹東に2017年6月と今回(2月)と、既に2回も言っている。
そこで、「中国がその言葉通り、国連による制裁(決議)を忠実に実行しているのを見てきた…」という。
その丹東の町の役人らは、制裁の結果、店舗の閉鎖、人員削減等、中国側にも負の影響が出ている旨を告げていた。

ブランスタッド氏が中国通なことによるメリットは、他にもあるとNPRは言う。
麻薬、fentanylなどのアメリカへの密輸問題だ。
トランプ政権は、この問題、中国からアメリカへの麻薬の密輸問題を重要政策リストのトップの方に載せている(中国からは、合衆国郵便を利用しての送付例がとても多いという)。

ここから先は、NPRがいう(トランプ政権が見る)、今後の中国の動向と、それが世界、引いては米中関係をどちらの方向へ持って行くだろうかの予測である。

NPRがいう第1のポイントは、アメリカの共和党の対中姿勢である。
今までは本来の強い姿勢(hawkish policies)を多少手直ししようとしていたが、この処の動きで「目には目を!」(アメリカへ進出する中国企業に、中国に進出しているアメリカ企業が受けているような、不利益な態度を示せ)と言う声が高まっているという。
これに対しては、中国は、アメリカの農産物の不買運動などを始めることで、共和党政治家の足許を掬う、支持者らを離反させることもありうるとしている。

第2のポイントは、アメリカのグローバルな戦略への影響である。
アメリカなど外国企業に厳しくする一方で、中国の国有企業を助成していることなどを受けて、報復措置として、アメリカもこの処の対テロ作戦重視から、中国(とロシア)を意識した、ライバル競争重視への転向である。
これには、以前は改革志向と見られていた中国の習氏が、実際には公民権を抑圧したり、党中央への権力集中を強めていることがある。
これは、ブランスタッド大使も認めている。

その反面、習氏は、汚職撲滅に実効的な政治を推し進めて来たし、大気汚染の改良もしつつあるのも事実である。
「古い友人」とされている大使は、こんな難しい局面でこそ、真に意味のある行動がとれる(と自他共に思う)。

事実、彼は着任早々の6月28日に、ノーベル平和賞を与えられた中国人Liu Xiaobo氏(肝臓がん末期であった)の待遇改善の申し入れもしていた(しかし、その後間もなく、本人が死亡)。
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再び麻薬の拡散について

アメリカ社会を毒している麻薬の拡散度について、この欄でも記してきた(いかに拡がっているか、その拡散の早さについても)。
それらはヘロイン(opioid)系でOxyContin、fentanyl、Vicodinなどの商品名で売られ、普及している。
いずれも鎮痛剤として始ったことに由来しているが、今や全米で年間、数十万人の命を奪いつつある。

NPRは、それらの商品のメーカー(薬品工業団体)が、これまでに商品の浸透のために鎮痛剤を利用する医療機関などに対し巨額の贈与(millions of dollars)を行ってきたことも報じている。
それも、ミズーリ州選出の民主党上院議員マッカスキル(Claire McCaskill)氏が、自らが議員としてまとめた23ページのメモを見ながら行った議場での演説を援用する形で報じている。

その要旨は、薬品工業団体は、ヘロイン系のこの種の自らの商品の害を、一世代の永きにわたり、うんと過少に宣伝してきた一方、医療機関などの作る団体に対して働きかけ、上記のように巨額の贈与をしつつ、「顧客として囲い込みを図ってきた」ということである。

その上でNPRは、ラトガー大学の先生の言を引用している。
「…これら医療機関などの作る団体が今や、ヘロイン系の薬が『いかに素晴らしいか』などと宣伝しているのを見ると、我が国は、この面で本当にひどい状況になっている…」。

鎮痛剤メーカーの団体でも、ヘロイン系とは違う素材を使った薬品や、場合によっては、薬品以外の心理学的な身体を動かす療法なども開発していると伝えている。
また、あるヘロイン系の薬のメーカーは、最早OxyContinを売り歩くようなことはしていない、と断っている。
とはいっても、これまでのことがある。2000年から34万人以上がヘロイン系の薬によって死んでおり、今後いくつもの訴訟が生じてくることは、十分考えられると言っている。

議会の諜報委員会でのメモ

この処、連邦議会下院諜報委員会(House Intelligence Committee)内で共和党議員によって造られたメモを開示するかどうかで議論が交され、メディアも集中して報じていた(大統領も同意して開示することが決り、公開された)。

NPRは、これに関連して、1980年代にかけ諜報機関CIAの一員として30年近く働いていた男、Pillar氏のインタビューを載せている。

質問するその記者によると、当時の議会では、同委員会の活動を巡って、今とは違って超党派的雰囲気が強かったとしている。
今回の問題のメモを見たPillar氏の感想は、一言にすると、「大したことはない」が、「少なくとも、当該諜報機関の了承を得ないで公開が決定された点で、諜報機関や、その情報源となったところに、マイナスの影響だ」である。

Pillar氏は言う。
「たしかに、1980年代には、この問題での超党派的動きがあった…しかし1990年代、ニュート・キングリッチ氏が政争に火をつけてから、委員会の様子も変ってきた。たとえば、訊問方法(拷問)についても、民主、共和が別々にメモを作成するなどの事が生じた。それでも今回ほどではなかった…今回のは、特別検察官のやっていることを真っ向から貶し、信頼を失わせようとするかのようだ」。

アメリカのような民主的共和国で、諜報機関が実際にどんな尋問方法を採用しているか、それが果してアメリカ合衆国の建国の理念に沿ったものか否か。
誰かが、それをチェックする必要があるという当然の前提に立って、これをチェックするのは、やはり議会の役割である。

NPRの記者は更に、このメモの記している内容につき問われたトランプ大統領が、「各自が自ら問うべき問題だ!」と言ったことを踏まえて、
「その意味は、FBI長官代理ローゼンシュタイン(Rod Rosenstein)氏、ないし長官レイ(Chris Wray)氏自体に対し、辞任を促すものか?」と問うたのに対し、Pillar氏は、「多分長官レイ氏に対するものね…」と答える一方、「しかし長官レイ氏は、FBIの立場をしっかり守る姿勢を示しており、かつ全国のFBI職員組合も、それをサポートしている…」とも答えている。

公職選挙法(州法)上の制限

刑法犯で服役しても、日本では刑期を終えれば、選挙権が復活できる。
なお、選挙絡みの有罪判決については、日本でもアメリカでも別ルールを定める。
アメリカでも、多くの州ではこれと同じルールであるが、只今の処、4州では、この復活が自動的ではない。

NPR(2月2日)は、その1つ、フロリダ州の例を挙げて、そのルールが連邦裁判所により、合衆国憲法違反とされた例を報じている [1]。

同州の知事(共和党)が強く主張して決ったそこでのルールは、受刑者が、委員会のメンバーの前で頭を地に擦り付けて(kowtow)詫びた上、委員会がOKしたにしても、更に知事が、拒否権を有するというものである。
しかも、それは「刑期を終えて5年を経過し、全額の弁償をしたうえで…」の話しである。
事件は、それら9人の受刑者を代表してNGOの選挙権団体が起こした。

これはフロリダ州が、50州の中でも特に共和と民主の競り合いが激しく、9人の受刑者票と言えども、その効果が計り知れない処から、実際上、大きな意味を持つ(ある団体の調査では、現在フロリダ州内の150万人が、こうした受刑者経歴を持つという)。

連邦裁判官は、このフロリダ州の法律を合衆国憲法修正Ⅰ条と修正ⅩⅣ条の違反とした。
知事の代理人は、「上訴する…」、と言っている。
このフロリダ州のシステムは、このスコット知事の下、2011年の法改正で導入された。
それ以前は、上記のような要件の付かない法律であって、この判決が確定すれば、2011年以前の法律に戻り、自動的に復権できることになる。



[1] 他の3州は、アイオワ、ケンタッキー、ヴァージニアである。

アメリカ社会の荒廃

トランプ大統領は、ビジネスマンとして、目先の利いた不動産投資家として、世界を飛び回っていた(ロシアや中国にも行っている)。
その間、それらのいわゆる後進国と言われるような国の空港、道路、鉄道、橋梁などを見、母国に帰ってきて、アイゼンハワー時代に整備された「ハイウェイ」などの荒廃した様を見て、「インフラ整備」の必要を強く感じていた。
そのことを選挙運動中のものも含め、多くの演説中で力説していた。

しかし今日のアメリカの荒廃などの問題は、単にインフラだけの問題ではない。
社会のいたるところに存在する。
銃による大量殺人事件、opioidの名で呼ばれるヘロイン(麻薬)中毒死の蔓延など、荒廃を、社会の荒廃を示す指標には事欠かない。
数え挙げればきりがないが、学校での性的問題も含めた暴力行為の多発なども、その1つである。

ピューリタンが自らの信仰を守ろうと、命懸けで大洋を渡ってきた。
神との直接対話をする地として最高に価値あるものとして開いた17世紀北米の原野。そこから4世紀近くが経つ今のアメリカ。
物質的な面では進展があったが、精神の面ではどうなんだろう?上に挙げた処では、荒廃が著しいのではなかろうか。

この欄では、メディアの1つ、主としてNPRの放送するアメリカの姿を紹介してきた。そんな例を2月2日のNPRから、2つばかり拾ってみた。

1つは、アメリカのスポーツイベントとしての最大とされる「スーパーボウル」=「最大の性取引イベント」(biggest sex-trafficking event)と題された記事である。
この日曜日、開催市ミネアポリスのホテルに全国から集まってくる群衆。
その中に典型的にいるのが、家出少女、学校をさぼって出てきた少年などである。
ミネソタ州の保安官は、父親に売られた9歳の少女を補導した話をしている。
しかも、その姉は、既に同じ運命になっていた。

もう1つは、移民第2世の話しである。
ユダヤ人の叔父がopioid中毒で、家族からも見放され、独りで寂しく死んでいく話である。
彼がopioidに嵌り込んだ根本の原因?移民としてアメリカ社会で生きて行く上での色々な困難、ユダヤ移民であるがゆえに、彼が自認する己の能力・努力に対し、アメリカ社会が、必ずしも公正に答えてくれなかったとの思いも、その1つとして働いていたようだ。