リトル・ロック・ナイン60年

9月25日を迎え、アメリカのメディアの多くが、60年前のアメリカ南部アーカンサス州、リトル・ロック・セントラル高校での事件を記念している(“Little Rock Nine, 60 Years”という訳である)。

アメリカの南部が一口に行って、どんな特徴のある社会か、折に触れて記してきた。
きっかけは、ニューヨークの法律事務所にいた時(1982年)、向うの弁護士から言われた次の言葉、「このニューヨークが、アメリカだと思っちゃいけないよ!」であった。

60年前の1957年といえば、日本は朝鮮戦争の余波もあり、漸く復興の足音がはっきり聞こえ始めた頃であった。
一方アメリカでは、キング牧師がアラバマ州都モンゴメリ市の中心に近いデクスタ通り(Dexter Ave.)の黒人教会(その昔は、奴隷取引所)に赴任してきて2年が経っていて、公民権運動の萌しを示す、いくつかの出来事が起こっていた。

その人達の中心的テーマは、「白と黒の非分離」(desegregation)である。
3年前の1954年、ウォレン(Earl Warren)長官の下、最高裁の9人の判事の全員一致によるブラウン判決(Brown v. Board of Education, 1954)が出されていた [1]。
「教育の場における人種分離は、それ自体、憲法の定める平等権を侵すのみならず、将来的にも異人種との共存、相互理解に根本的な妨げとなる…」式の判決である。

これに対し、南部各州は、猛烈な反撥を示した。
ウォレン長官の人形が、数か所で絞首刑に処せられたほか、ヴァージニアの名家、南部民主党保守派の代表的な連邦上院議員のバード(Harry F. Byrd, Sr.)氏が、有名なマニフェストを出すなどで、徹底した抵抗Massive Resistanceを示していた。

そんな状況だから、最高裁の判示にも拘らず、南部州での白と黒の共学は一向に進まなかった。
ある程度非分離が進んだのは、1960年代にかけてであったが、その動きがピタッ!と止ったばかりか、何と1990年代にかけて、再び白黒の分離の方向になっている。

ただし、司法の分野では、注記のブラウネル氏が推薦した連邦の裁判官(いずれも独立心の強い、根性の据わった人)が、任命されて第5巡回裁判所など、南部州に影響するポストを占め、公民権運動に好意的な判決を次々と出した [2]。

さて、冒頭の“Little Rock Nine”であるが、こうした遅々として進まない中で、脱分離の方向での2,3の力が現れ続けた。
1つは、連邦政府からの圧力である。
彼らは何といっても、州と連邦予算を握っている。
今時、私学でさえも、何らかの形でそうした連邦政府からの資金注入を受けている。

もっと本質的なのは、やはり世論、それも、黒人の有識者らを中心としたそれであった。
そうした人々が叫ぶ「脱分離」の声である。
その元には、黒人の「能力を引上げたい」、ひいては「社会格差をなくしたい」という願望がある。

反対方向にも言及すると、白人社会の間にも、脱分離に対する根強い抵抗があることも確かである。
第一、白人家庭の中で、自分の子弟を黒人が主の学校に上げようとする例は、先ず「ゼロ」といってよいであろう。

NPR(9月26日)は、60年の記念日を迎えたLittle Rock Nineのうちの8人の生存者(どれも皆70歳台)ともインタビューしている。

8人は今、高校の講堂に戻ってきた。
そこでは60年の記念式があり、アーカンサス州生まれ、育ちで、同州知事もしていたビル・クリントン元大統領が話をしている。
今宵のテーマは、「前進を振返る」であるが、少なからぬ人が、「今は逆の動き、再び分離の方向が出てきている…」と述べていた。






[1] 政治(ことに国内政治)に疎いド素人だったアイゼンハワー大統領は司法長官に、人柄の立派なブラウネル(Herbert Brownell, Jr.)を持ってきて、司法の大本をすべて任せた。そのブラウネル氏は、最高裁長官にウォレン氏を推薦し、その結果、必ずしもアイゼンハワー大統領の思惑通りではなかったが、ブラウン判決が生れてきた。

[2] これを見て、南部州の民主党議員などは、怒り、かつ慌て、アイゼンハワー大統領に圧力を加えて、ブラウネル氏を辞任させている(1957年)。ブラウネル氏はその一方で、徹底した反共産主義志向の人であった。公職を辞任した後は、再びニューヨークの弁護士として働き、ニューヨーク市弁護士会長(ABCNY)もしていた。

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民間軍事会社

アメリカは、暫く前まで自他共に許す「世界の警察官」として活動してきた。
アフガニスタン、イラク、ソマリア、リビア…などである。
その中で、合衆国軍が必ずしも戦闘行為を行ってきた訳ではない。

アメリカには都合のいいことに、「民間軍事会社」と称する会社がある。
そうした会社の1つに、Blackwater Worldwide社がある。
作ったのは1997年で、ミシガン州出身(1969年生まれ)のプリンス(Erik Prince)氏による [1]。
彼も、元はと言えば海軍特殊部隊(Navy Seal)出身である。

アフガニスタンでのアメリカの軍事活動はもう16年になり、合衆国として史上最長である。
トランプ大統領としても、何がしか処理したいところであろう。

そこで、民間軍事会社の話しに戻ると、もう辞任したが、バノン氏と大統領の娘婿のクシュナー氏とが、今年の春先にもそうした提案を政権に持ち込んだが、マチス(James Mattis)国防長官と、マックマスター(H.R. McMaster)大統領補佐官に断られていたという(8月31日のNPRなどが報じている)。

同じNPRによると、Blackwater社は、この種の民間軍事活動契約によって、これまでに政府との間で何億ドルもの収入を得ているという(なお、プリンス氏の姉が、教育長官De Vos氏でもある)



[1] こうした民間軍事会社が出来てきたのは、特に9.11事件後、アメリカが、それに対してアフガニスタン侵攻を始めた頃だという。

トランプ大統領と共和党

トランプ大統領が、法治国の政権運営の「要」となる司法長官に任命したのは、アラバマ州からの連邦上院議員だったセッション(Jeff Session)氏。

任期途中で空白になった上院議員の席は、臨時の措置として州議会の授権を受けた、その州の知事が任命することができる(連邦憲法、修正ⅩⅦ(2))。
セッション氏の後任には、同じアラバマ州の共和党(GOP)から、ストレンジ(Luther Strange)氏が任命されていた。

今回、その補充任期切れでストレンジ氏は、新たに選挙によって州民の洗礼を受ける必要がある。
このストレンジ氏は、トランプ大統領と「馬が合って」いるらしく、同氏の予備選挙のため、大統領がわざわざ現地アラバマ州ハインツヴィルに入った、とNPRは伝えている(9月22日)。

ストレンジ氏は、GOPの主流(Establishment)がサポートしているが、ここに変な「番狂わせ」が出てきた。
アラバマ州の最高裁長官をしていたが、頑固一徹で時代遅れの判決をすることで有名だった、そのために2回もその職を解かれていたムーア(Roy Moore)氏が [1]、予備選挙でストレンジ氏の対抗馬として出てきたからである。

つまり、司法以外の、この政治の世界では完全なアウトサイダーの筈だったムーア氏が、GOPの主流に対抗しようという訳である。
トランプ氏も、そういう意味ではGOPの主流と言うよりは、初めからアウトサイダーとして出馬してきているが。

そのトランプ氏が、今回は正統派であるGOP主流の候補の応援に廻っているところから、選挙でトランプ氏を支えてくれた筈の非主流ベース(それがムーア氏の支持に廻るとして)との関係がどうなるのか、囁かれている [2]。

トランプ氏のお得意のツイートを見ると、大統領は感動詞とともにこうつぶやいている。
「あの男(Big Luther)は大好きよ!忠実だし、よくやってくれる!」
これは、ストレンジ氏が短い上院議員の期間中での投票実績を見ての話しのようである。

NPRが言うのは、このように彼のバックグラウンドとは違う正統派支持に回るのは、トランプ大統領としては珍しく、目立つ動きだという訳である。
しかも、ムーア氏を応援しているのは、GOP主流ではない。
更にもっと右の、例のバノン(Steve Bannon)氏やサラ・ペイリン(Salah Palin)などの各氏である。









[1] 州の最高裁の前庭に古くからずっと安置されていた「十戒」を刻んだ石の彫刻を、州民からの「宗教と国との分離を定めた憲法(修正Ⅰ)違反だとして、除去す両命じた連邦裁判所の命令を拒んだこと、更に連邦最高裁の同性婚を認める判決を争ったことなどが有名である。

[2] サラ・ペイリン女史は、「ムーア氏の支持は必ずしも反トランプを意味しない…むしろトランプ大統領を勝利に導いたPeople’s agendaのサポートに他ならない…」と述べている。

未だに大きい白と黒の差

アメリカ社会での貧富の格差が著しい1つの断面として、白人と黒人の間の格差が大きいことを以前採り上げた。
それも、住宅保有率の違いと、もう1つ、どんなところに住んでいるかによって、更に格差が拡大する様を、その際、いわゆる赤線「レッド・ライニング」について、政府自身(連邦住宅庁(FHA))が、1930年代からそうした線引きを行っていたことを紹介した。

南北戦争が終わり(北軍、連邦軍の勝利で)、北の共和党政権による改革が、10年ほどの間、南部州で行なわれた(たったの10年間しか続かなかった)。
いわゆるReconstruction Eraである。
奴隷解放に始って、北による自由人局が、奴隷解放から間もない一文無しの黒人らに、それこそ衣食住から、働くことの世話まで手を貸した。

中でも南部各州に初めて黒人らのための公立学校制が敷かれた。
北の連邦政府も、彼らの教育に力を入れたが、何よりも黒人ら自身が、教育の重要性を十二分に理解していた。
それから、もう150年近くなろうとしている。
今では黒人らの大学進学率も、白人よりは下だが、HBCUと略されている黒人中心の大学を主として、相当上がってきている。

ところが、シカゴ・トリビューン紙は、なぜ黒人だけが四苦八苦しているのか、「大学は出たけれど…」の嘆き節なのか、をセントルイスの連邦準備銀行による調査を元に伝えている。

1992年から2013年の20年余りの間に、白人大学生の資産は平均して86%上昇しているのに、黒人のそれは、その間に55%減少したという。
理由として4,5挙げられているのが、第1に、彼らはそもそも大学進学時に金銭的に無理をしている(奨学金ローンの負担が大きい)。
卒業後も、その返済負担が、より重くのしかかり、結婚、住宅購入、貯蓄が、いずれも時期が遅くなる。

その反面で、彼らは貧しい家族の面倒を見る形になり、その負担が遙かに大きい(弟妹などの生活から進学までも負担する例が少なくない)。
その絡みでは、白人の学生は、平均して親からの仕送りを多く受けられる率が高い。

上記のような結果として、黒人の(大卒とは限らないが)場合より、白人の自宅が、競売に掛けられる割合はずっと低い。
黒人の場合、4人に1人が、住宅競売の憂き目に遭っている。

以上のような調査結果を踏まえたシカゴ・トリビューンによる提言は、第一に、奨学金のうちのローン部分を減らし、贈与の形を増やす、住宅金融制度も、より黒人らに利用し易いものに変えるなど、である。
画期的な、これは!というようなものはない。

アメリカのシンクタンクとインターネット巨人

アメリカに多い「桁外れの大金持ち」、彼らが、「どうやって政治を動かしているか?」。
この文脈で、首都ワシントンに400とある、シンクタンク(think thank)について記した(5月8日)。

そこでは、現代の風変わりな彼ら、慈善活動家(Philanthro-Capitalist)たちが議会に影響を及ぼし続ける様を、
「博愛主義の巨人らが、イデオロギーの闘いを戦う様を、まるでギリシャ神話中の神々が、互いに雷光を撃ち合う様のよう」、
と記していた。

NPRは更に、そうしたシンクタンクを、「政策工場」(policy factories)と呼び、そこで稼ぎ口を見つけている学者らに対しても、今は、「業界再編成の嵐が吹いて…」としている。
一例として挙げるのが、1999年設立で左寄りのデジタル時代の政策形成に的を絞ったシンクタンクNew America Foundationでである。

そのシンクタンクが力を入れていたテーマ「独占企業問題と、それとの戦い」と題したプログラムが突然中止されたという話しである。
同プログラムの主任研究員だった男が言うには、彼が、「そこで、独占企業の1つとして、グーグルを叩いていたが、グーグル(そのCEO)は、同シンクタンク最大の拠出者だった…」ことである。

こうした「学生なき大学」とも言うべきシンクタンクが、首都ワシントンに最初に姿を現したのは、もう1世紀も前のことになる。
この100年の間にシンクタンクの動き方も、随分変わったとしている。

現代での拠出者は、概ねプログラム毎に焦点を絞って寄附を行っている。
シンクタンクの経営者は、こうした資金集めに奔走しなければならない。
右寄りのシンクタンクの1つ、American Enterprise Instituteの社長は言う。
「2015年には1年で150回スピーチをした…私の仕事の75%は、シンクタンクのための資金集めだ…」。

ここで真に問題なのは、New America Foundationのようなシンクタンクよりも、グーグルやフェイスブックのような「デジタル巨人」(Giant Tech)だという。

アメリカでは、巨大企業が、シンクタンクの研究活動などを資金集めを通して、その活動を左右した例が以前からあった。
巨大なオイルやガス会社、それに巨大薬品会社、などである。

しかしグーグルは、非公開会社に過ぎない。
それが言葉と思想が流れるパイプを(外部には知らられていない)独自のアルゴリズムで司っているだけではない。
そのパイプの管理に伴い、莫大な広告料収入を得て、言葉と思想の創造にも係り出したということだ。
その間に、このパイプに流れる(流す)ものを次第にコントロールし出した形だ。
しかも、連邦法Communication Decency Act of 1996があるから、彼らはいわゆるフェイク・ニュースや誹謗中傷に対して保護されている [1]。






[1] 連邦法Communication Decency Act of 1996は、インターネット時代に入って早々に、インターネット全体への対策として、当初Telecommunications Actとして出されてきたが、同法が出来るプロセスの中で、下品さや猥褻さ対策に重点が移った。また時代の流れで、急に増えたISP保護の意味もあった。

戦争の宣言権

アメリカが未だイギリス王の植民地(コロニー)であったころから、「戦争権」は、王の専権とされていた。

トランプ大統領になって、もう8ヶ月。
初めからこの大統領の言動は「なかなか予断できない」と言われてきたが、目下の焦点の1つは、北朝鮮への対応、それも核兵器使用への予断である。

大統領の9月19日の国連演説中の次の声明が響いている。

「アメリカやその同盟国を守らねばならないと判断したら、他に選択肢はない。北朝鮮を完全に破壊し尽す…」

アメリカの連邦憲法では、戦争を宣言(declare war)するのは、連邦議会の権限と決っている(Ⅰ,8(11))。
ところが、アメリカ合衆国は、この戦争宣言を1941年(W.W.Ⅱ)以来行っていない。

戦争の性質とも絡むが、常に悠長な手続きを踏んでいられるとは限らないことも1つの理由になる。
そのため、W.W.Ⅱ以後に、以下のような大統領への予めの授権(立法)で代替措置が採られたこともあるが、中には、世間の非難を食い止めるのに、十分でないケースもあった。

この戦争宣言に代る予めの授権とは、どんなものか。

最初に、「ベトナム戦争」の例がある(アメリカ政府は、これを戦争と呼ばなかった)。
どんな特殊な事情があったか、ざっと振返ってみよう。


事は世に言う「トンキン湾事件」によって起こった。
1964年8月2日、アメリカの駆逐艦Maddoxが、ベトナム、トンキン湾沖の海域を巡視して走っていたところ、北ベトナムの魚雷艇(第135魚雷隊)が、有効な距離300メートル以内に近付こうとしてやってきて、魚雷を6発を放ったが、全て外れた。
一方Maddoxは、12.5センチの銃弾の機銃、280発を発射。
同時にアメリカの空母「タイコンデロガ」から発進したクルセーダージェット機によって攻撃された。

事件を受けて、ジョンソン大統領は、「議会による決議」を求めるとともに、テレビに出演して、
「アメリカは、東南アジア地域での自由をサポートし、平和を守るための一致した決意を示さねばならない…」、
「(今回の事件は)我合衆国軍を防御するために必要な行動であり…大戦争(wider war)を求めるものではない…」、
「敵対国家(hostile nations)は、合衆国の自国を防御しようとし続ける決意を知るだろう…」、
と述べていた。

時恰も、大統領自身が候補として出ている1964年大統領選挙の日まで残り3ヶ月を切ろうとしている時であった。

8月6日、時の国防長官マクナマラ氏は、議会上院の合同委員会で説明していた。
「Maddoxは、アメリカが常時、世界中のどこでも行っているような、お決まりの任務に就いていただけだ…」と。

こうしたことを受けて、議会は8月10日に、
「1955年の東南アジア集団防衛条約(SEAT)の加盟国からの要請があれば、それに応じ大統領が、彼らの自由を守ってやるべく、そのために必要なすべての措置(step)をとれるよう、議会は授権する」
と言う、いわゆるAUMF決議を通した [1]。

このときは、この「AUMF決議」の名ではなく、「トンキン湾決議」と呼ばれたが、しかし、この決議が実質的にベトナム戦争開始の号砲となる。

この1964年から3年も経った1967年になると、世間はアメリカの犠牲(アメリカ兵の人命に加え、財政上の負担の大きさ)に、騒ぎ出した。
具体的には、先の議会が大統領に与えたお墨付きのAUMF決議の取り消しである。

その際、表面化したのは、アメリカの海軍が当時発表していたこと(8月4日にも、更なる北ベトナムとの間で武力衝突があったことなどの報道)が、根拠がないものだったことである。

一方、1969年1月に就任したニクソン大統領は、当初トンキン湾決議の取り消しに反対していた。
しかしその後、同じ反対でも、理論構成を変えて、大統領の権限を主張していた。
「すべては、憲法が明定している大統領の陸海軍の統帥権(Ⅱ,1)に由来する」という訳である。

そのニクソン大統領になって3年目の1973年、議会は、今回は正式名称「AUMF決議」を、ニクソン大統領の拒否権を蹂躙して通した。
このAUMF決議は、「大統領に勝手な真似はさせない」とする逆方向からの内容のものであった。
つまり、ニクソン大統領は、武力を行使するについて、一定の要件(議会との相談など)に従わねばならないというものである。




[1] このAuthorization for Use of Military Forceは、416-0の全会一致で、上院では88-2の多数で通っている(en.wikipedia)。これには、この地裁で共産主義が伸長するのを、食い止めたいという思いも強く働いていた。

外国諜報監視法

フォード、レーガン、H.W.ブッシュ各大統領と、ボブ・ドール氏(1996年大統領選挙での共和党代表候補)各氏の政治上の顧問として活躍した弁護士、ワシントンインサイダー、国際ロビィストなどとして知られるポール・マナフォルト氏については、前にも記した(彼が、ウクライナの親ロシアの前政権に密接に協力していたことなど)。

NPRは、そのポール・マナフォルト氏に対し、外国諜報監視裁判所(FISC)が1978年の外国諜報監視法(FISA)の下での捜査令状(デジタル時代向けの特殊な令状)を発したと伝える(9月19日)。
捜査を指導するのは、トランプ大統領が気にしている(一説によると、首にしたがっている)特別検察官モラー(Robert Moeller)氏であるという [1]。

このFISCによる令状の発令の要件は、普通とは違う。
対象となるのは、外国諜報、つまり外国勢力との交信、または国際テロに係る交信である。
こうした対象に対しては、令状主義の例外として、特別の秘密法廷となるFISCが発行する令状により捜査されることになる。

NPRの記者は、FISA法の下での令状について、「その発令の基準は厳格な筈だ!」と言っているが、上記の通り一般の刑事捜査の場合とは、ちょっと基準が違う。
すべてデジタルの世界のことであり、robing wiretapなどの、融通性のある操作方法も可能である) [2]。






[1] そのトランプ大統領は、ポール・マナフォルト氏につき、「いいやつだよ!だけど選挙運動では、後半になって、ちょっと手伝って貰っただけさ!」、と言って距離を取っているという。

[2] FISAの下でのroving wiretapなどの捜査方法や、簡易の令状(60日間有効)の要件につき、小著、「アメリカの憲法成立史―法令索引、判例索引、事項索引による憲政史―」、八千代出版、p.920~922, f.n.302と306参照。

中国政府のお尋ね者

ウェンギ(Guo Wengui)氏、50歳。
彼は今、ニューヨークのセントラルパークを見下す70数億円もするペントハウスに住んでいる。
それが、なぜ中国政府のお尋ね人なのか?

NPRは書いている(9月1日)。
あるジャーナリストが、彼と中国政府内のエリート何人かとの間の汚職取引を暴露して以来、もう2年以上彼は逃亡生活の身である。

中国政府が放っておけないのは、彼が政府中枢のエリートら何人かの汚職を暴いてきたからであるという。
もっともNPRは、その主張のいくつかは、「事実と違っている」としつつ、「うちいくつかは、裏付けが取れていた」としている。

一方、中国政府の方は、ウェンギ氏に強姦の罪を着せている。
これに対しウェンギ氏は、「全く根拠がない…ただ自分が、中国政府のリーダー達の汚点を握っているから、でっち上げてきた…」と反論している。

ここでNPRの記者が特派員に質問し、その返事を載せている。

「トランプ政権は無論、中国から何らかの妥協を引き出そうと思えば、彼の国外退去のカードを切って、それを試せる…しかし、合衆国政府がそれをするか(ウェンギ氏の身柄の引き渡しに応ずるか)どうか…どうやらウェンギ氏は、オバマ大統領の時代に国家安全省長官ジョンソン氏に会っているらしい…その際、次期のトランプ大統領も、『それはしないだろう』との確言を得たようだ。しかも面白いことに、その会見でウェンギ氏は、『自分は(トランプ氏の)マラ・ラーゴのクラブ会員だ…それもずっと初めから』と言ったらしい」。

NPRの記者が、この先、ありそうな展開を訊ねたのに対し、特派員は、
「…なんとも言えない…何しろ10月には中国政府(党)の重要な大会があるからね」、と答えている。

Dream Actについて

この処、話題になっていたアメリカのDACA。
子供の時にアメリカに連れられて違法入国した約80万人近い人々に対する行政上の措置として、期限を2018年3月末として、国外退去処分が延期されていた。

この措置は、2012年6月、オバマ大統領の下で窮余の策として決定された。
というのは2010年にも、「夢の法」Dream Actがどうしても議会上院を通せなかったからだ [1]。

このDream Actは実は、その10年前の2001年に法案として議会に提出されていた。
今から実に16年前である。以来、色々と変更案も出され続けていた。

オバマ大統領はその時言っている。
「このDACAは、一時凌ぎの措置だ…これらの才能も意欲もあり、かつアメリカを愛する若人たちに、若干の時間の枠を設けることで、我々は資源の最適活用法を考えねばならない…」。

トランプ政権は、一体この懸案(16年越しの法案)をどう処理する積りか?
2018年3月末の期限切れで、80万人をどう処分するのか、セッション司法長官は、「後は議会の出方にかかっている…」と述べた。

これに対して、15の州とワシントンD.C.の司法長官は連合で、セッション司法長官を訴えてきた(9月7日)。
訴えているのは、DACAを決めた時に、その措置の実施に伴い、彼らが申出た氏名、住所その他の、これら若人たちの個人情報が、「政府により不当に使用された」という点である。

さてDream Actであるが、トランプ政権が本気になったとしても、議会がどう出るか。
下院議長ライアン氏は、「メキシコとの壁を設けることが、絶対必要な条件だ…」と言っている。
Dream Actのチャンピョンは、民主党(イリノイ州)上院議員ダーバン(Dick Durbin)氏である。

「全国的に、国民の76%が肯定している…もしダメにしたら、これらの若人たちを国外に追いださねばならない…今こそ超党派でやらなきゃ!」と言っている。





[1] 2010年には、成立に一番近い所まで行っていた。下院は通り、上院でも5票が不足していただけだった。

トランプ氏とゴールドマンサックス

コーン氏、アメリカの国家経済会議の議長は、1990年にウォールストリートの雄、ゴールドマンサックスに入った。

偶々、上司としていたのが、目下ゴールドマンの代表(CEO)を勤めるブランクファイン(Lloyd Blankfein)氏であった。
以来ずっとブランクファイン氏の下でサラリーマンとして、のし上がり、ブランクファイン氏がCEOになると、その副代表(COO)となって10年経っていた [1]。

前注誌は、彼がNo.2の地位に満足できないで、鬱々としていたらしいと伝える [2]。
そんなところへ、トランプ氏からこの国家経済会議議長の声が掛ったのは、ある意味、コーン氏にとっては格好の機会とも言えた。
これまでのゴールドマンの先輩で、栄誉ある転身をした、たとえばルービン氏などの足跡を辿る形と言えた。

一方のトランプ氏といえば、むしろ「ゴールドマン嫌い」と言ってよかった。
ゴールドマンに限らず、アメリカの大手金融機関は、トランプ氏を一様に敬遠していた。
ゴールドマンに至っては、「1ドルたりとも貸すな!」、「1株たりとも売買するな!」とお達しをしていた。

トランプ氏は、1991~2年にタージ・マハルなどに金を掛け過ぎ、4つの(その後の件を加えると、6件の)破産申し立てをしていて、「俺は連邦破産法の専門家だ!」などと吹聴し、現にテレビで破産法の話をしていた位である。
そんな訳で、国内の金融機関とはあまり付き合いがなく、「メインバンク」としては、ドイツ銀行が入っていた。

トランプ氏はまた、選挙中の公約として「ワシントンなどのアメリカの政治の中心は沼だ、干拓して虫干しする」と言っていたのであるから、ウォールストリートの雄のゴールドマンに流し目を送るなんてことは、在り得ない筈であった。

それが今はどうであろう。
前注誌は、マラ・ラーゴ別荘(プライベートクラブとして使用中)内の狭い会議室内に、大統領を含む男14人と女性1人が狭角レンズ写真一枚に納まっている様を載せている。
それを見ると、その中に4人もの元ゴールドマンの人間が座っている。皆一点を注視している。
4月6日のアメリカ軍によるシリア政府の空港へのミサイル攻撃の様子である。

4人もの元ゴールドマンの人間とは、コーン氏の他に、財務長官ムニューチン(Steve Mnuchin)氏、先に辞めさせられた主席戦略官だったバノン氏、それに国家安全顧問代理パウエル氏である。

前注誌は、以上のような内容の記事を、「ゴールドマン・サックス、ホワイトハウスを占拠!」との見出しで出してきている。
これに関しゴールドマンの現CEOブランクファイン氏も、41階の会長室からハドソン河を見下しつつ、
「こうなったのは、正に正当化されるべきことですよね!大統領が『いい人』を探して、たまたま、そこにゴールドマンの人々が多く集まったということで…」。

前注誌は同時に、そこには「皮肉な巡りあわせがある」、としている。
上に述べたとおり、ゴールドマンなどアメリカの一流金融機関は、トランプ氏を敬遠し、近付かないようにしていた筈だったからだ [3]。
逆に言えば、トランプ氏の方も、元来からゴールドマンを好きではなかったからだ。

第一、コーン氏も、会長のブランクファイン氏も、民主党であることは周知の事実である。
その選挙の期間中、トランプ氏の方は、ずっとゴールドマンの悪口を言い放しであった。
共和党候補として争っていたクルス氏の妻が、ゴールドマンの銀行部門の長であったこともあり、目の敵のように攻撃していた。
「こいつら(ゴールドマン)は、彼の上にtotal、total、totalコントロールをしているんだから…」と。
そして「ゴールドマンこそ、悪の本能寺だ!。彼らが、アメリカの工場を海外に持って行って、アメリカ人のjobを失わせている!」と言っていた。

そのトランプ氏が、2016年11月、予想外に当選を決めるや(11月9日の朝、市場は1000ポイントの暴落を記録していた)、掌を180度返したかのような態度に出た。
これを前注誌は、トランプ氏がウォールストリートに向って、「俺も、見捨てたもんじゃないよ!バカ(lunatic)じゃないよ!」と見せたかったからだとしている。

トランプ氏は、人に対して
「あれは私の○○将軍で…」とか、
「あそこにいるのが、トランプ政権の○○で、ゴールドマンの社長をしていた人だよ!」、
「元エクソンのCEOだった人で…」、
などと言って、得意になっている人だ、とも記している。

あの「媚びへつらい」、として悪名高くなった6月12日の閣議の一部生放送で、ムニューチン氏は言っている。
「諂ってなんかいないよ!副大統領が始めたから、僕も部屋の皆の気持ちを察して言っただけさ!批判的な言葉はなかったかだって?…そりゃフェイクニュースの方に聞いてくれ!」。

前注誌は、10年もCOOの座で尻をもじもじさせていたコーン氏をピックアップに行ったのも、大統領の娘婿クシュナー氏だという。
その仕事がまた、この娘婿にとって「とても魅惑的な、興奮に値するものであった…」としている。

そのコーン氏が、今やトランプ政権を、少なくとも、その財務・金融面から支えているとの見方がある。
先日も、NPRがトランプ政権で人々がドンドン辞任させられている中で、もしもコーン氏が辞めたら、ウォールストリートは、どう反応するだろうか?と案じる記事を載せていた。








[1] ゴールドマンといえば、そのパートナーとなる人は、アメリカでも最も羨ましがられる人に決っている(Vainty Fair、2017年6月号)。

[2] ブランクファインが2015年9月にリンパ腫を患った間に、コーン氏は、代理としての外部活動をした際の反響から、自信過剰になっていた周囲に働きかけたとして、前注誌はこれを“made a play to replace Lloyd”と書いている(しかし、取締役会メンバーは、ブランクファイン氏への信頼が厚く、動かなかったという。

[3] 前注誌は、2016年選挙でもゴールドマンはヒラリー・クリントンには675,000ドルの献金代りの講演料を払っていたのに対し、ゴールドマンの労使併せて、トランプ氏には5000ドルも出していない(クリントンには献金として34万ドル)という。

斬首作戦

北朝鮮の金正恩書記長の「斬首作戦」なる言葉がメディアで報じられた。
考えようによってはテロ行為であるが、相手が相手で、事情が事情ならば、正当化されうるのであろうか。

NPRはアメリカ合衆国軍も、それに参加していたと記して、G.W.ブッシュ大統領の下での国家防衛顧問やCIAの高官であった人にインタビューしている(9月5日)。

それによると、元高官は、金正恩を狙っても、彼はよく防護されているという。
オサマ・ビンラディンとの比較で、狙うのはずっと難しいだろう…1つには、平壌の防空体制は強固だが、パキスタンにはそれがなかった…また、四六時中ボディガードに囲まれていて…しかも彼は夜間に移動する…北朝鮮には、あちこちに多くの地下壕や穴があり…先ず彼がどこにいるかを突き止めることが困難だ…」。

NPRの人:「それにフォード大統領時代にサインされた大統領令もあるよね。政治的暗殺を禁じている…」

元高官:「だから、ここでの用語は斬首(decapitation)になるんだ…オサマビンラディンに対しても、クリントン、ブッシュ、オバマ…すべて、その大統領による命令は、この斬首で来ている…」

NPR:「しかも、オサマビンラディンがテロリストだったのに対し、ここでは一応、国家元首だ…それが問題になるか?」

元高官:「だからもう1つの点、正当化理由の問題になる。レーガン大統領の1986年、西ベルリンのディスコが爆破され、そこに来ていた多くのアメリカ兵が死傷を受けた…リビアが、それを企んだとされ、レーガン大統領は、戦争も何もしていないリビアに対し、その組織に対し、爆撃命令を下している」

NPR:「あなたは攻撃に賛成ですか?」

元高官:「いや、2つの理由があります。第1は、金氏は、もう命令を出しているかもしれない…彼がいなくなっても、北の軍が自動的に出撃するでしょう…第2に、北でどんな混乱が起きるか?イラクで、アメリカが学んだ通りです…実際に混乱が起きてみてから、対策を立てた…それに今回、中国がいる。加えて、核が野放しになってしまうかも…」

NPR:「中国はどう反応するでしょう」

元高官:「中国の人と、この点で話をしたことがありますが、彼らは、それを戦争行為と見るでしょう…中国は、北との間で防衛協定を結んでいるのです…その危険があります…」。

営利法人トランプ大学を巡る集団訴訟

トランプ氏の大統領当選が告げられた直後の2016年11月11日、トランプ大学を被告として起こされていた7年越しの集団訴訟は、トランプ氏が25百万ドル(約26億円)で和解させ、すべて決着したと報じられていた(2017年3月31日)。

ところが原告の1人(女性)は、その集団の結んだ和解合意から脱退した上、裁判所の和解決定に対し、上訴したという [1]。

なお、トランプ大学は、アメリカの大学のレベルを認定する協会による認定を得ていない [2]。
なお、その協会は、外国の教育機関についての認定は行なえないが、外国の医学教育機関の認定のためには、もう1つ別の委員会があり、それをも教育省が監督している。





[1] その女性は、かつてトランプ大学で講義を聞いていたが、今は破産法の弁護士をしているという(2017年6月24日theguardian.com)。

[2] このような認定機関は、色々な教育機関について、2通りの認定の仕方が出来る。1つは、機関(institution)としての程度認定であり、もう1つは、(分野)プログラムの認定である。それらの認定機関は、更に合衆国の教育省Dept. of Educationの監督下に入る。

ハリケーン・ハーヴィとペット

アメリカ南部のテキサス州などを襲ったハリケーン・ハーヴィ(Harvey)。
今回、避難所に犬や猫などが一緒に連れられているのを、テレビなどで見られた方もおられよう。

2005年のハリケーン・カトリーナの時は、救助当局が、ペットの持ち込みを禁止していた。
そのため、ペットとともに残り、そのために命を落とした人もいたという。
アメリカの国としての反応は、2006年の連邦法によって示されている [1]。

NPRは今回、注記の法律によって、単にペットの命が救われただけでなく、その飼主である人間も、かなり救われたのではないか、と伝える(9月2日)。



[1] Pets Evacuation and Transportation Standard Actである。救助当局の連邦FEMAは、同法により、人々は(州以下の当局は)、救助計画中にペットのそれも含めねばならない。

アメリカの教育界での最新の数字2,3

アメリカ合衆国では2016年現在、幼稚園から大学まで、77百万人が通っているという。
この20年間で9.9%アップした(9月2日NPR)。

以上は、各人種に関係なく、全体の平均値であるのに対し、いわゆるヒスパニック系の学生は同じ期間に倍増して、今や全学生中に占める率も22.7%に達したという(Census Bureauから引用)。

更に、これは卒業率が高くないアメリカでは朗報と言えるが、フルタイムの学生の数と率ともが、増えている(4人のうち3人がフルタイムだ)という。
卒業率を上げるには学生への金銭的支援が一番であるが、教育長官Betsy Devosは、教育省内の「学生支援実行局」のような所(Student Aid Enforcement Office)の長として、以前、営利法人Devry Universityにいて、その後ウェストジョージア技術学校(Technical College)で働いていた人、シュモーク(Schmoke)氏を雇い入れたことがニュースに上っている。

何が問題か?と言うと、トランプ政権は、こうした営利法人の学校が学生らを食い物にすることに対する「見張り」の手を緩めるのではないか、その懸念である。

ここでNPRは、オバマ政権下の2016年、主として営利法人の学校がそうした行為をすることを予防するために、教育省内にそのための担当を設け、上記のDevry Universityに2008年から2012年まで働いていたシュモーク氏なども、卒業後の就職率で偽りの報告をしたとして検挙され、合衆国公正取引委員会(FTC)との間で和解を強いられていたことがあると記して、そうした懸念を裏付けている(そのケースでは、大学側が1億ドルを払わされて、和解したという)。

上に人種別の学生数(率)に言及したが、教える方でも(小、中学校だけをとると)、1980年代からの30年間で、非白人(黒人、ヒスパニック、アジア系、インディアンなど)の教員の、全体に占める割合が、2倍以上になったという。
その間の白人の教員の増加率を遙かに上回ったばかりか、非白人の生徒の増加率をも上回ったことを示している。

折角、上昇している非白人の教員の割合であるが、一方で辞めて行く割合も18.9%と高いという(白人教員の辞める率は12%)。
NPRは、この辞めて行く主な要因として、これら非白人の教員の配属される小、中学校での問題を挙げている。
いわゆる「二重の分離」(double segregation)の問題である。
つまり生徒の多数が非白人で、且つ貧困家庭が多いということである。