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陪審員の内部での不一致

「何回目かの正直」で(その前に100万ドルの調査費もかけて)トランプ氏が大統領選挙に打って出ようと、いよいよ決断した2015年初夏。そのトランプ氏のキャンペーン・マネージャーを買って出た男がいた。
それがPaul Manafort氏で、その前は(主として、2014年に失脚するウクライナの大統領ヤヌコビッチ氏―ロシア寄り―など)外国のためのアメリカ政府向けのロビィストなどをしていた。本欄でも、1,2度採り上げている。

そのManafort氏が、フォード大統領に始まって、トランプ大統領に至るまで、歴代大統領に何らかの形で近付きのあった彼が、このほど主として2016年大統領選挙へのロシアによる干渉に絡む罪状で起訴されていた。ワシントンD.C.の連邦裁判所でである。

アメリカの裁判は、基本は陪審制(jury system)である。憲法で定められている。刑事なら、有罪か無罪かの判定(評決)は、全員一致などの陪審員(多くの州が、12人制)の意見で決る。
ところが、18の訴因のうち、10の訴因について、陪審員の1人だけがどうしても残り11人に和しないで有罪の評決に至らなかった。一方、ワシントンD.C.の事件で被告のManafort氏は、Mueller特別検察官との間で、公判の3日前になって有罪を自認するplea dealを行った。
なおManafort氏は、この8月初めには、ヴァージニア州内の同じく連邦裁判所で、税法と銀行法絡みの別件の18の罪状の内、8件で有罪の評定を下されていた。

このようにダブルで訴追されていて、しかもいずれも結構複雑な案件であるから、それぞれの連邦裁判所の処理の現状だけを以下で短く記す。

先ず、上記のMueller特別検察官によるワシントンD.C.の連邦裁判所での事件の方であるが、彼が有罪を自認したとされる2つの大きな罪、(ⅰ)合衆国に対する共謀と、(ⅱ)司法に対する共謀に係るplea dealでは、彼はニューヨークとヴァージニアにある4つの不動産の所有権を放棄するとともに、数行に分散してある資金と、保険契約上の権利を放棄するという取引が行われた。しかも、特別検察官の側は、なおも圧力をかけ続けられるよう、残りの5つの罪状については当面取り下げないことにした。

さて、ヴァージニア州の連邦裁判所では、陪審員12人の一致が得られずに、Manafort氏が18の訴因のうち、8つでのみ有罪の評決が出されていた。そのことについてNPRが伝える内容は、その間の「12人の間のやりとり」なども交え、克明に記していて珍しい。
こうなると、連邦裁判所の手続法上は、いわゆる“mistrial”となり、原告に当る司法省としては、2つの選択肢がある。
9月21日までに「やり直し」を求めるか、残りの10の訴因については、訴追を見送るかである。

陪審員12人が、密室の中でどんなやりとりをしたのか、その中の1人、科学者だという女性の陪審員が語っている。
彼女は、トランプ大統領のファンで、被告のManafort氏に対しても、16日間の公判中も、できたら何とか無罪にしたい、との思いでいたが、「陪審員としての義務に背くことはできず、内心の葛藤を克服したという。なぜmistralになったか、それについての説明では、次のように述べていた。

「1人だけが異論を唱えていた…異論の理由は、上記の人が、『弁護団には抗弁することなんか、ありゃしない』式のことを口走ったため、他の人が、『そんなことは手続が終ってから、皆が判断することだ…』、などと反論するなどのことがあり、そのもう1人の陪審員が意固地になって、全員一致に至らなかった」という。NPRの記事である。その事件での陪審員は、たまたま男6人、女6人の構成であった。

とに角、陪審員の間でゴタゴタがあったというか、気まずい雰囲気になったことは事実らしいが、「裁判官は、公正にやっていたと思うよ」、というのが、Manafort氏の弁護士の言である。
ある刑事に詳しい弁護士は言っている。
「この種の複雑な事件で、16日も続く事件では、陪審員の間でゴタゴタが生ずるのも珍しくないが、この程度では上訴理由としても、弱いだろう…」

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